Computer & RF Technology

アンリツのSG MG3660Aを修理する

ヤフオクで入手したSGを修理しました。RF測定器を修理するにはスペアナが必要になることが多いですが、代わりにRTLドングルが十分に役に立ちました。以下その作業過程のメモです。

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RFな工作にSGが使えたらなぁとは思っていたのですが、これまで入手せずにいました。RTLドングルの定量的な評価をしてみたくなり、ヤフオクにてジャン測を落札してしまいました。あまり商品知識が無いまま落札してしまったのですが、この機種は旧型携帯電話PDCやPHS関連の機能を持つデジタル変調SGで、携帯電話生産ラインで使用されていたものだと思われます。

年末に手元に届き、さっそく動作確認してみると一応信号は出てきました。オシロで見るとそれなりの正弦波になっています。レベルや周波数を設定変更するとちゃんと変化します。周波数カウンタで見るとGHz以上の信号も出せます。やれやれと安心しかけたのですが、よくみるとなんかおかしい。設定した周波数から21MHzほど上下しており、しかもふらついています。しかもスペクトルが大きく2MHz程度広がっており、まったく純度が無い状態でした。周波数設定でMHz単位では上下に変化するのですが、MHz未満は設定についてこず変化しません。

一方レベルの方はきちんと設定できるようです。パワー計やオシロの振幅で見た限りにおいて、設定に従ってちゃんと変化します。さすがにSGだけあって、受信機の受信限界以下まで絞れるのは有り難いです。思ったよりも筐体が大きく、ファンの騒音が大きいです。その他、電源ボタンが取れている、画面が暗い(バックライトが劣化している)などのダメージがありますが、これはまあ我慢の範疇です。

とはいうものの、周波数がきちんと設定できず、信号の純度が無いのではSGとしては失格です。ジャン測ですから致し方ありませんが、ハズレを引いてしまったようです。大枚はたいたお買い物ですので、なんとかなるならなんとかしたいところです。

まずはWebで情報を探してみたのですが、残念ながら殆ど見つかりません。古い機種なのでマニュアルなどもアンリツのWebサイトには掲載されていません。Weblogでこの機種について言及されている記事や、測定器掲示板で質問してみたのですが、情報は得られませんでした。参考になりそうなものに、アンリツテクニカルジャーナルの記事として、これの後継機種について解説がありました。シンセサイザの周波数関係など詳細についての記述は無いものの、一応の参考としました。(記事最後にリファレンスがあります)

正月休みの時間をつかって、ダメもとで修理を試みることにしました。現物の中を見て構成を推測します。症状は特徴があるので、シンセサイザの構成さえ判断できれば故障の範囲は特定できそうな気がします。もしかしたらどこかのVCOの電源が発振等起こしてることが故障が原因ではないかという予想をしていました。

まずは分解してみます。隅の足をすべて外し、上蓋と下蓋を取り外します。ここで封印シールが切れてしまいました。中の保護パネルを取り外すとモジュールが見えます。下にバス基板があって、モジュールが上から差し込まれている構造です。大きなモジュールには、AMP, CONV, LOCALとシールがあります。外部のコネクタからの入力などから、他の基板は変調モジュールだろうと推測しました。名称からしてCONVとLOCALあたりがクサいです。

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まずは下のバス基板から供給されている電源を確認します。溜まっているホコリを掃除機で掃除しながら、基板のシルク印刷を手がかりにテスターとオシロで確認していきます。電源はとりあえず正常のようです。この段階では手がかり無しです。

中身を観察するために、まずはCONVモジュールを外してみます。ここにはYTOとそのドライバが搭載されています。ネジ止めされているアルミのシールドカバーを開けて観察すると、サンプラ、ミキサ、フィルタなどの信号経路がよくわかります。これでモジュールに入ってきている各コネクタの信号の役割がわかりました。X5がYTOのシンセサイザのREF、X4がサンプラの入力、X1が100MHzの基準周波数です。

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一度CONVモジュールを本体に戻して、信号をモニターしようと電源を入れてコネクタを抜いてみたところ、X5(W5)のコネクタを抜くと、SG OUTPUTのスペクトルが縮み、若干周波数がすこし動きました。X4(W34)を抜いても同様にスペクトルが大きく縮み、周波数が大きく動きました。スペクトルはピンと立っています。ロックはしておらず、周波数はふらふらと動くのですが、この状態でもMHz単位の設定に応じて周波数が動かせます。元の状態から比べるとまったくマシです。最初の状態は、単にフリーランというわけではなく、おかしな変調がかかっていたことがわかりました。

となると、X5, X4に入る信号が悪さをしていそうです。本来ならここでスペアナを使いたいところですが、RTLドングルとSDRソフトウェアでモニタします。そうしたところ、X4の信号が大きく数MHzにわたってスペクトルが広がっています。RTLドングルだと2M以上にスパンを広げることができませんが、均一にスペクトルが広がっていることは十分確認できます。明確なピークの無いノイズのような波形です。中心周波数は97MHzまたは103MHz付近で、SG周波数設定の25MHz毎に切り替わります。一方X5の方は、MHz未満の設定に応じて変化しているようで、こっちの信号のピュアリティについては問題はなさそうです。

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というわけで、X4の信号を生成しているLOCALモジュールの部分に不具合がありそうです。モジュールを取り外し、シールドケースを開けて観察してみます。

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上面に載っているICの品番を見ると、MC4044MやMC12010などの個別のICを使ってPLLが構成されています。金属ケースのモジュール部品はDBM(TOKO製)のようです。ICのデータシートをWebで探し出し、これを参考に動作を追うことができそうです。

動作させながら信号をプローブして動作を追いたいところですが、モジュールの間の隙間が狭すぎます。一度モジュールを取り外して、クリップを掛けて、再度モジュールを本体に装着しなおす手間をかける必要があります。これをプローブする場所を変えながら何度も何度も繰り返します。

基板上にあるテストポイントがMC4044Mへの入力であることがわかりました。片方はプリスケーラ、もう一方はミキサからの出力です。これをオシロで観察したところ入力タイミングがかなり揺れていました。今度はMC4044Mの出力にピンを立ててプローブしてみたところ、振幅が足りないように見えました。ICは5Vで動作しているのに、出力は3V強しか出ていません。CMOSなのであればおかしい気がします。もしかするとMC4044Mが不良なのかもしれません。まずはこれを交換してみることにしました。

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ネットで調達先を探してみた所、zaikostore.comで取り扱いがあり、一個から販売してくれるようです。まだお正月休みでしたがとりあえずオーダーしておきました。ちなみに、測定器掲示板にもMC4044Mの調達先についても質問があり、上記が紹介されていました。同様に修理や自作で使おうとした方がいらっしゃったのかもしれません。

休みが明けるまで調査は中断となりましたが、早くも休み明け二日目(1/8)にはチップが届いてしまいました。素晴らしい早さです。正月早々感謝です。さっそくチップを交換してみました。ICのパッケージはSOPですので、両側にたっぷりハンダを流しておき、2本の半田ごてで同時に加熱して外します。ソルダーウィックとフラックス洗浄剤で基板を清掃し、新しいチップをハンダ付けしました。

完治を期待しながら早速電源を入れ、動作確認してみました。ところが、残念ながらまったく現象は変わりませんでした。信号の振幅も変化ありません。MC4044Mは正常だったようです。

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期待していただけにがっかりしましたが、気を取り直して調査を継続します。ちょっと煮詰まってしまったので、裏面を見るためにアルミのシールドフレームから基板を外してみることにしました。そのためにはハンダをいくつか外す必要がありました。裏面には予想通りVCOなどがあった他、アクティブフィルタのオペアンプや、74F00などのロジックICが並んでいます。基本に忠実というか、ディスクリート部品が多用されています。MC4044Mの出力からのパッシブフィルタと、74F00の出力からのパッシブフィルタが並列になっていることが判りました。細かくプローブしてみると大きく信号を振っているのが、74F00のほうであることがわかりました。本来ロックしたら静かな信号となるはずですが、スペクトルがめちゃめちゃに広がっている理由がこれのようなので、この経路を切断して様子を見てみることにしました。そのため47uHのチップインダクタを二つ取り外してみます。

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そうしたところ、X4の出力が大きく変化しました。最初は大きく均一に広がっていたのですが、47uHを外したあとは90kHzの間隔でスペクトルが立つ、綺麗な変調がかかった波形になりました。ピュアトーンではありませんが原因を追いやすい波形です。周波数設定を変えるとちゃんと追従して変化します。PLLはロックしているようです。SG出力も、90kHz毎にあるピークのどれかにひっかかってロックします。これはサンプラの動作として妥当ですので、YTOで発振しているメインPLLはちゃんと動作しているようです。いいところまで来た感じです。

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この状態でオシロでアクティブループフィルタの出力を見てみると、案の定約90kHzで振れています。どこかに外乱の原因があるのではないかと回路を調べてたり、いくつかのポイントをプローブしてみたのですがわかりません。基板上にジャンパがあったのですが、これはVCOのVtであることがわかりました。これを外すとループを切ることができます。外すと90kHzの変調は無くなりますが、当然フリーラン状態になります。

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いろいろやっているうちに、SGの周波数設定を切り替えた直後、一瞬スペクトル幅が縮むことがわかりました。アクティブフィルタの出力やVtを見てみると、切り替えた直後は90kHzが無くなり、信号が落ち着く(水平に近づく)と次第に振幅が出てきます。

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これを見てピンときました。ダイオードによるPLLの高速化が影響しているのではないでしょうか。周波数切替後、収束を早めるために帯域幅を広げ、収束後は帯域幅を狭めています。基板上にそれらしいダイオードがあるのには気がついていました。となると、このダイオードで切り替わる時定数に関係する箇所が影響していそうです。基板上の回路を追うと、先ほどのジャンパ近くにある電解コンデンサが怪しいです。10uFの有極電解コンデンサが二つ逆向きで直列になっています。よく見ると基板に汚れた跡があります。液漏れを起こしていたようです。液漏れによる容量抜けで時定数が変化してしまい、ループが振動するようになったと推測しました。まずは容量抜けを補うようにコンデンサを追加して動作させてみることにしました。そうしたところ案の定ぴしっとロックするようになりました。あらためて基板をもう一度取り外し不良部品を撤去、とりあえず手持ちの電解コンデンサを取り付けました。それから切り分けのため先に取り外してあった47uHを再度取り付けてみたところ、今度は大きな外乱は生じず正常に動作しました。ループがロックしている状態では、こちらも正常な動作をするようです。

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不良だった電解コンデンサは、10uF 35V低背105度対応のものでした。計測器の大事なPLLループ時定数として電解コンデンサが使われているのが意外な気がしました。両極対応または特性改善のためか背面直列接続になっています。15年程度経過しているので仕方ないとはいえますが、背面接続になっていて電解コンデンサにバイアスがかからないことが寿命を縮めた気がします。念のため基板上の他の電解コンデンサを確認してみましたが、液漏れを起こしているものは他には見当たりませんでした。

まともに動くようになったので、ひとまずモジュールを元に戻して一度修理を終えることにしました。結局延べ5日ほど要しました。内部がディスクリート部品により構成されていたので、動作を追うことが可能でしたが、こんなことができるのはこのくらいの時代の製品が最後かもしれません。結果的に修理はできましたが、部品の寿命やかけた手間を考えるとジャン測は割に合わない気がします。

手元にまともな測定器が無いので、本当に完治したのかどうかはわかりませんが、とりあえず使えるようになったのでいろいろ遊んでみたいと思います。デジタル変調SGということで外部信号でIQ変調がかけられるのでgnuradioと組み合わせて遊べるのではと考えています。

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