Computer & RF Technology

スペクトラムを眺める行為と、坂本龍一+真鍋大度「センシングストリームズ」

スペクトラムを眺めることは自分にとって実は密かな楽しみだったように思います。電波の質を確かめるのに、単純な受信機しか無かったときには、音で判断するほか手段はありませんでしたが、スペクトラムアナライザがもしあれば、さまざまな状況が画面で一目で見えると憧れたものです。昔、NHK出版から発行されていた今は無きエレクトロニクスライフ誌に、佐藤氏執筆によるスペクトラムアナライザの製作記事が掲載されたのを見た時には、自作が可能なのかと大変驚きました。図書館でバックナンバーのコピーを取りそれを穴があくほど眺め回したものです。旧Ham Journal誌にも同氏の製作記事が出たりもしましたが、やはり原点はエレクトロニクスライフ誌の記事だったように思います。

後日実際に製作にかかったものの、果たして難易度は高く、いろいろなモジュールを作っては壊し試行錯誤を繰り返しました。2SC1855でForward AGCによるログアンプを作ったり、VCOの可変幅を広げようと苦心しました。結局YTOを使うことで、なんとかそれなりに動作するようになりました。ディスプレイはオシロのXYモードです。FM放送波の音に同期してスペクトラムが踊るのを眺めるのは大変面白く思えました。地上波TV放送のスペクトラムを眺めたり、第2世代携帯電話のスペクトラムが方式によって違うことを眺めたりして悦に浸ったものです。とはいえ、スペアナのつもりで作っているものの、測定器として使えるほどのものではありませんでしたので、アナライザとはとても言えない程度の代物でした。

秋月のキットや、GigaStなど有名なものもありましたので、このスペアナを作るというジャンルは、それなりにチャレンジしがいのあるテーマだったのだと思います。その後おじさん工房というサイトで、FPGAを使っていろいろ試作されているのにも驚きました。そうした折になんとキットとしてAPB-1が頒布開始されましたので、真っ先に購入の申し込みをしました。おじさん工房の技術には目を見張るものがあり大変勉強になりました。

先刻ご承知のように最近ではSDRが身近に利用できる環境が整って来たので、スペクトラムを眺めることが大変容易になりました。ウォーターフォールなどの表示もごく普通に備わっていますので、SDRを使った受信では大変便利に使えます。

というようにスペクトラムを眺めるという行為について、少しばかり思い入れがあるわけですが、今もSDRやこれに関連するテクノロジーに興味があるのは、このスペアナ作りにいそしんだというバックグラウンドがあることに疑問の余地はありません。スペアナを目標とすることで格好の技能訓練になっていたのも事実かと思いますが、スペクトラムを眺めて悦に浸るなんてのはまぁ特殊な嗜好だと自分でも思っていたわけです。

ところが、先日より地元で開催されている、一見なにも関連が無さそうな札幌国際芸術祭で、なんとこれに関連する展示が行われているのです。このサイトで彼らの名に触れることになるとは思っていませんでしたが、坂本龍一+真鍋大度とライゾマティクスのチームが手がけた「センシングストリームズ」が、なんと電波に関する展示なのです。さまざまな電波が放送やモバイルなど人々の活動に付随して放射されていますが、この不可視な電波を音と画面で知覚するというメディアアート作品です。特殊な嗜癖だと思っていたスペクトラムを眺めるという行為が、なんとアート作品として、一般の人に提示されることになったのです。

モエレ沼公園のガラスのピラミッドに4m x 6mという巨大なディスプレイが設置され、なんとそこにスペクトラムが表示されるというのです。同期して音も発生します。現地モエレと札幌中心部のチカホの2カ所において、さまざまな周波数帯で収集される電波を、体験者がダイアル操作によってバンドを切り替え、スペクトラムの違いを見ることができます。スペクトラムもいくつもの表示の種類があり切り替え可能です。また、携帯電話等を操作することによって電波を発生させてインタラクションも可能です。

バンド切り替えの様子。周波数が表示されています。

4Kが4面という4m x 6mの巨大ディスプレイは圧倒的です。こんな機材を間近で見ることのできる機会もなかなかありません。7/19〜9/28まで長期に渉って展示されていますので、機会があれば是非。

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