Computer & RF Technology

ストリップラインによる多段方向性結合器を試作してみる

方向性結合器を4層PCBで試作してみました。結果から言えば、層の厚みが予想と大きく違っていたため、線路のインピーダンスが全く合わず、初回の試みは失敗でした。再チャレンジするつもりですが、現状をメモしておきます。

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ストリップラインによる方向性結合器を検討するきっかけとなったのはこの記事で、マイクロ波帯ベクトルネットワークアナライザの大変興味深い自作例です。多層板をつかって、PCBの内層を使って方向性結合器を作り出しています。しかもMCUには、おなじみのLPC4370を使い、その内蔵高速ADCで信号を取得しています。NanoVNAで低周波用のVNAを作りましたが、ゆくゆくはマイクロ波帯のVNAは試してみたいと思っていました。ノウハウを溜めていくために、まずは方向性結合器の実験をしてみることにしました。

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4層PCBでストリップラインを構成しようとするからには、その層構成を知らねばなりません。Webで資料を探したところ、典型的には1.6mm厚の基板の場合、誘電体が0.2mm、1.2mm、0.2mmの厚みで積み重なるようでした。通常は内層をGNDや電源に割り当て、表面を配線層に使いますが、高速デジタルの伝送線路として、密度を上げて、細い線路で設計した場合に、インピーダンスが適切になるよう、プリレグはとても薄く設計されているのだそうです。この図はElecrowのオーダー手引書より引用です。

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この層構成を前提に、ストリップラインとして両面をGNDで囲い、内層を伝送線路に使う前提でパラメータを検討します。内層がGNDの中央にはならず、かなりオフセットした状態になりますが、このような伝送線路をオフセットストリップラインというのだそうです(記号ではOSL)。シミュレーションによると0.3mmの線路幅で50Ω付近となるようです。

ちなみに両面基板の片側をGND、もう一方に伝送線路を置いたものはマイクロストリップラインと呼びます。ストリップラインと名前が似ていますが違う形式です。ストリップラインは、伝送線路の両側に誘電体(または両側に空気)を間に置き、それぞれGNDで挟んだサンドイッチ構造になっています。ストリップラインを厚さ方向に半分に割って、片側を空気で開放(GND無し)にしたものがマイクロストリップラインと言えるかもしれません。

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この構成で基板を定義して、伝送線路を並べて結合器をシミュレーションしてみます。3段構成にすることで、帯域を広くすることができます。3GHzを中心に、0.5-6GHz程度の範囲を目標にします。

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1段目、2段目、3段目の線路の太さと隙間を加減して適切な結果が得られるよう、シミュレーションを繰り返しました。設計のための数表もあるのですが、猿のようにシミュレータを使って特性を追い込みます。

結果として、下記のような特性になりました。結合度は20dB前後でリプル一定になるようにしました。方向性は60dB前後となっていますが、さすがに実際にはこんな性能は得ることは不可能でしょう。

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設計ができたら、CADでレイアウトします。1段分の長さが11mm、内層の線幅は0.3mmから段数に応じてわずかに細くなっています。伝送線路から少し離れたところにViaを並べてかご状にしています。これで銅箔とViaでシールドされたエリアとなっています。

ちょっと困ったのは、持っているEagleのライセンスはLight Editionなので、本来4層の設計はできない(Light Editionは2層まで)のですが、シンプルなパターンなので、ガーバファイル名を付け替えるなどのやりくりで、無理やりデザインしています。

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ガーバができたら他の基板と一緒にElecrowに注文、およそ10日ほどでできあがってきました。配送はOCSを使いました。

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外観からは結合線路はGNDに隠れて見えません。

さっそく試してみます。コネクタと50Ωの終端抵抗を付けて測定器に繋ぎます。

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少々反則ではありますが、ネットワークアナライザ(HPの本物)で観察してみました。測定環境の都合で0-3GHzの範囲での観察ですが、残念ながら結果が思わしくありません。結合度は20dBちょいで想定にかなり近いのですが、一方、通過のほうは、かなり反射が多すぎなのです。方向性もよろしくありません。

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原因を検討したのですが、基板を横から観察してみると、プリレグの厚さがかなり薄いようなのです。設計では0.2mmを想定していましたが、実際の基板では、見た目で0.12mm程度しかありません。このため、線路のインピーダンスが低くなりすぎていて、反射が生じているようです。シミュレーションで、厚さのパラメータを変えて確かめてみたところ、似たような特性が得られました(シミュレーションは0-8GHz、上の計測は0-3GHzで一部分のみであることに注意)。

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というわけで、最初の試みは残念な結果でしたが、原因がわかったので設計を変えてあらためて試してみたいと思います。うまくいけばゆくゆくはマイクロ帯のVNA製作にチャレンジしてみたいと考えています。

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